海の後味

ネコジャラシは穂先を夜露に濡らし
歩道へ頭を垂れている
何も持たぬ私の左手が
触れようとしている

夜を写す水たまりに
君は傘を滑らせる
もう一つの世界への入口さ
深く潜ってゆこう

幻想の海の中
上手に泳いでみせるよ
だから今夜だけは

曖昧な関係が本物に見える
もう人の目も気にしなくていいよ
ありふれた言葉も
口にするのが君なら
乾いた心青い海にひたしてゆくよ

ハンドル握る小麦色の腕
いつにも増して頼もしく見える
ずっと着かなければいいって
思ってるの知ってた?

価値観を擦り合わす
必要もない私たち
もうじき泡になるの

曖昧な関係を今だけ無視してさ
もう別々の傘をさすのもやめにしよう
言いかけた言葉も
飲み込んでしまうんだ
波は押し寄せるばかりで
引くことを知らない

「これで最後」を何度も繰り返し
私だけがいつだって
酔ってたし溺れていた
この信号が青に変われば
私が一人きり降りる場所

君のどんな声色も思い出せてしまう
恋人でもないのに絡め合う感触も

愛のない関係を
ここで終わりにしよう
もう随分長く深く潜っていたな
陸に打ち上げられ
頬には海の味だけが残るの
愛しい幻想の後味

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